ある朝出勤する際のことです。マンション前の路上で、青年男女が4人ほど猫を取り巻いています。そこには下半身が異様に曲がった猫。「どうしたの?」と聞くと、茶髪に白い毛が混じっている理解不能なファッションの女の子が「猫が交通事故にあったみたいなんです。かわいそうなので捕まえようと思うんだけど、すごい怒ってるからダメなの」と答えます。
やせ細って汚れていて、どうみてものら猫。生後まもなく捨てられたのでしょう。頑張って、ここまで生き延びてきたのでしょうが、人間をひどく恐れているようで、こんな体にも関わらず捕まえられないようにと必死で抵抗しています。
「おじさんがやってみよう」と捕まえに行きました。フーッ、ガブッ。何度も噛まれて手は血だらけ、ここで怯んでなるものかと押さえつけ仰向けに抱き上げ、ぎゅっと抱きしめたらおとなしくなりました。でも、まだ警戒を解かない様子で、じっとこちらを睨んでいます。でも、体は小刻みに震えて、その目には涙がいっぱい溢れていました。
「時間外でも対応してくれる病院を知っているから、そこへ連れて行く」と言うと、若者達は「やったー!」と大喜び。
猫を抱えたおじさんを囲むように若者4人がゾロゾロ歩いて行きます。「おじさん、ここのマンションの人だよね。何号室?」「***号室だよ」「僕、○○○号室なんです。よろしく」「ああ、知っているよ」。でも、このお宅は最近引越してきたこともあって、あまり親しくしていませんでした。子供は腰パン(ズボンを引きずるスタイル)、ピアスという外見で、それを訝しがる住戸もありました。でも、私は「現代の若者だな。遊びたい年頃だ」くらいしか思っていませんでしたが、その子が愁傷にも“猫助け”です。通り過ぎてゆく人たちの冷ややかな視線を物ともせず、猫を助けようとしています。
病院へ着いて獣医を叩き起こしました。「治療すれば命は助かりますが、脊髄がやられているから後ろ足は立たないですね。下半身不随となり、うんち、おしっこも難しいでしょう」という見立てに一同沈黙。
くだんの男の子が、「友だちに飼い主を探すのが上手いやつがいるから、そいつに頼もう」と言います。でも、「半身不随の猫を看るのって大変だよ。うんち、おしっこの始末もしてやらなければならないし、一日中目が離せない。そんな猫を世話するという人が居る? 一度飼い始めたら、駄目だからと、そこらに捨てるというわけにいかないんだよ」と、獣医が諭します。またまた、一同沈黙。「道路で、また轢かれたり苦しみながら死ぬよりも、こうやって、ここまで連れて来ただけでも良かった。そう考える事はできない」
そうこうするうちにも時間は過ぎていきます。「先生、申し訳ないですが、会社があるので、あとはお願いします」「わかりました。でも、あなたの手の方が心配。すぐにお医者さんに行ってください。腫れてしまうかもしれない」「大丈夫、大丈夫。慣れていますから」と、私は病院を出ました。ふと服を見ると、あちらこちらに血が・・・。これでは会社へ行けないと家に引き返しました。
◇現実◇
家で応急措置をしていると、「ちゃんと病院へ行った方が良いよ」と、家内が言います。そこで、出社が遅れることを会社に連絡し、病院に行きました。治療を終えて会社へ向かいましたが、気になって仕方がないので、動物病院へ寄りました。
「猫はどうなりましたか?」
「かわいそうだけど、安楽死させました。」
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